『環境ナノ部材』産業を集積化 - 世界トップレベルの『環境ナノ』拠点形成へ

No.252 プラスチック抗体

プラスチック抗体は専門的には分子インプリントポリマー(Molecularly imprinted
 polymer)と呼ばれます。アイディアは1949年に遡り、タンパク質のインプリントが
試みられてから四半世紀経ちますが、低分子を工業的に取り除く用途以外ではまだ
十分に実用化のレベルには達していません(1)。
カリフォルニア大学アーバイン校のKenneth Shea教授は、東京工業大学と連携して
最近のプラスチック抗体研究をリードしていますが、メリチンというハチの毒素
タンパク質をインプリントしたプラスチック抗体が、天然のタンパク性の抗体と
同様にメリチンを中和して毒性を軽減することを、マウスを使った動物実験で
証明しました(2)。
モノクローナル抗体の製造方法の進歩で、抗体医薬が先進医療で重要な存在に
なりつつありますが、従来のタンパク性の抗体は製造が難しくコスト高である上、
冷蔵庫で保存しても数カ月しかもたないなどの問題があります。プラスチック抗体は
コストと安定性でタンパク性の抗体をはるかに凌駕します。
さて、プラスチック抗体の作り方ですが、鋳型物質(例えばメリチンのような タンパク毒素)の表面の特徴を認識するモノマー(高分子の構成単位)と架橋性 モノマーとを共重合させたあと、鋳型物質を洗い去り、鋳型物質の形そっくりの プラスチックの穴ぼこを残すという方法をとります(注3の図"Lock and Key" 「鍵と鍵穴」参照)。鋳型に使ったタンパク質と次に出会うと穴ぼこがそれを 捕らえるのです。 タンパク質の粒子は通常直径10ナノメートルくらいですから、プラスチック抗体を 作る分子インプリント法はまさに典型的なナノ工学といえます。
タンパク性の抗体と同じ機能を持ち、安くて、安定・堅牢なプラスチック抗体が 得られれば、治療、診断、測定にとどまらず、幅広い用途に利用できると考えられます。 ボツリヌス菌やトウゴマの強い毒素を水道に混入させる水テロが社会的リスクとして 懸念されるのであれば、それらの毒素に対するプラスチック抗体を充てんした浄水器を 用意しておくこともあり得るでしょう。宮崎に悲劇をもたらした口蹄疫でも、病原 ウイルスをトラップする安価なプラスチック抗体があったら被害はもっとおさえら れたかもしれません。 分子インプリンティングは、古くて新しい技術として、特にリスク対応の場でその 研究開発が活気づくように思われます。
(1) 量産方法に課題があるのかもしれません。http://akimada.blog129.fc2.com/ (2) http://www.technologyreview.com/biomedicine/25591/ (3) http://www.technologyreview.com/biomedicine/21603/